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最高裁判所第一小法廷 昭和49年(あ)1955号 決定 1974年11月28日

本店所在地

横浜市磯子区杉田町一四八番地

有限会社 臨平商事

右代表者清算人

間辺平助

本籍

横浜市磯子区杉田町四三六番地

住居

同所一四八番地

旅館等経営

間辺平助

大正四年一二月二五日生

右の者らに対する出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反、法人税法違反各被告事件について、昭和四九年八月一二日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人桂秀威の上告趣意は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 藤林益三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫)

上告趣意書

被告人 有限会社臨平商事

被告人 間辺平助

右の者等に対する法人税法違反等被告事件の上告趣意は左記のとおりである。

昭和四九年一〇月九日

右被告人両名弁護人 桂秀威

最高裁判所第一小法廷 御中

一、原判決は第一審判決中被告間辺に関する部分を破棄し同被告人を懲役一年(但し二年間執行猶予)および罰金三〇万円に処しまた被告会社に対する第一審判決判示第二の罪に関する部分を破棄して被告会社を罰金一八〇万円に処し、且つ被告会社に対する判示第一の各罪に関する控訴を棄却した。

二、しかしながら本件の情状に鑑みるときは右の量刑は甚だしく不当である。即ち

1. 第一審判決判示第一の各罪について云えば、被告人間辺は法律的知識もなく、ただ同業者が従来行つてきた貸付契約を踏襲して判示貸付をなしていたもので特に公正証書作成費用の如きは金利には該当しないと考え、従つて日歩三〇銭を超えることにはならないと信じていたものである。

2. 被告会社の如く不特定多数の客を対象として無担保で少額の貸付をする金融業者においては回収不能となる危険は極めて大きく、これが企業として成り立つてゆくためには、ある程度の高利をとることも止むを得ない一面を持つている。現に大衆はこのような高金利を支払うことを承知の上で無担保で信用調査もなく安直に金融をうけられる機関を利用するのであつて、それなりの社会的有用性を有し一概に高金利の故を以て非難さるべきではないと考える。

3. また被告人等の場合、公正証書の作成費用を債務者から収受したことが違反となつたものであるが、右の金員は事実上も悉く公正証書作成費用として費消せられ現実には被告人等の利得となつてはいないのである。

4. 次に判示第二の法人税法違反の事実については被告会社は昭和三五年四月二七日前記判示第一の事実の嫌疑で神奈川県警による家宅捜索を受け、帳簿その他一切の書類を押収せられ法人税の確定申告期限である同年五月三一日にも書類が押収せられたままであつたのみならず被告人間辺及び被告会社の経理担当者は殆んど連日取調べのため警察に出頭を命ぜられ申告期限に確定申告書を提出することが全く不可能な情況にあつた。

このため窮余の策として同年七月十三日赤字の確定申告書と申告の延期願い並びに書類が押収せられている旨の県警の証明書を南税務署に提出した。もとより正確な申告ができないならば、虚偽の申告をするよりはむしろ無申告でおくべきだとするのが正論であろうが法律に無知な庶民の感情として、申告せずに放置するよりはむしろ形だけでも申告書を提出しておいた方が、少しでも税務署の心証を害さないで済むであろうという気持をもつたことも一面肯けるものがある。

5. 最後に本件全般に関する情状として被告会社は更正決定により多額の法人税を賦課された外これに伴う重加算税、事業税、住民税の追徴をうけ、又本件により貸付関係の書類が長期間押収せられたことにより、その間債務者の退職、転居等の事情で債権の取立が不可能となつたものが多く、且つ被告人間辺及び被告会社が摘発を受けたことが新聞等により債務者間に知れ渡つたため任意弁済の成績も低下し、結局これらの原因から被告会社は倒産するに至り現在は営業をしていない。

6. 被告間辺も同人が零細な資金をもとに長年粒々辛苦して築き上げた被告会社の倒産により、物心両面に甚大な打撃を受けた上、今日まで十年を超える裁判の期間中深く傷心し、被告人等に対する懲戒という刑の目的は既に充分達成せられている。

三、以上諸般の情によれば、原判決の量刑は甚だしく不当であり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。よつて原判決は破棄せらるべきである。

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